Case.2:バーナム効果ー「愛」という名のテンプレート

実験区

一時期、毎晩のように金縛りに悩んだことがありました。
ただ疲れているだけ、そう自分に言い聞かせてみても気味の悪さを拭うことはできず…。
そして、私は占いに頼ることにしました。

プロフィールを見て、私が選んだのは、霊視を得意としている鑑定士。
金縛りというと霊的なものを感じさせられることもありましたが、
霊視の力なら、もっと深い部分が視えるのかもしれないと思ったんです。

[Case.2:バーナム効果]

「最近、毎晩のように金縛りが続いていて不安なんです」

30秒ほどの沈黙。それは不安を増幅させるには十分な時間でした。

ーーー『男性が視えるんです。』
「男性…ですか?」
ーーー『はい、誰かあなたに近い方だと思います。』
「心当たりがなくて…。」
ーーー『とてもあなたのことを大切に想っているようですよ。』
「おじいちゃん、とかですか?でも私が生まれる前に亡くなってますし…」
ーーー『いえ、もっと近い。あ…これは、お父様じゃないでしょうか?』
「父?いえ、父はまだ生きていますし…」
ーーー『このような形で現れるのは亡くなった方ばかりとは限らないんですよ。最近、お父様とお話しされましたか?』
「そう言われると最近は話す機会が減ってます。」
ーーー『そうですよね?とても穏やかな目をしていらっしゃいますし、お父様があなたの様子を心配しているんです。それが金縛りという形で現れたんですね。』
「父が…ですか…」
ーーー『そうです。遠くてご実家に帰るのが難しいようなら、電話だけでもしてあげてください。そうすればお父様も安心されて、金縛りもなくなるでしょうから。』

ここで、鑑定終了しています。

ですが…。

話しているように、最近父と話す機会が減っているのは事実でも、私はこの頃実家暮らし。
それに、離れて暮らしていることを前提としているかのように、実家に帰ることや電話を勧めることにも違和感がありました。

「霊視って、何が視えてるんだろう…」

戸惑いと不信感、だけど、微かに受け取った気がした希望。

それは、実際には同居しているというような物理的な矛盾を超えて、
本当に父が私のことを心配してくれているのなら、どれだけ幸せだろう…。
そんな思いでした。

[Case.2:解説ーー誰にでも当てはまる存在]

なぜ私はこの時、物理的な矛盾を抱えながらも救いを感じてしまったのか。

そこには、占いの世界で多用される「バーナム効果」という巧妙な罠が仕掛けられていたからです。

「お父様が心配している」という言葉。
これは一見、私の背景を言い当てたように聞こえますが、実はこれがバーナム効果の典型的な手法でした。

親の存在は、愛情や距離感の差はあっても、誰もが避けて通れないテーマ。
「最近話していないのでは?」という問いかけさえ、私の状況を引き出す質問でしかなく、さらに「亡くなった方とは限らない」と幅を広げることで、的中率の高いテンプレートになっていたのです。

この時、私が矛盾を指摘しなかったのは、父の愛という物語を壊したくなかったという、ひどく感傷的な理由からです。
けれど、その一方では、1分いくらの時間刻みで鑑定を受けているというリアルな感触も残ったままでした。

矛盾を突きつけさらに話を聞くことよりも、このまま「愛されている娘」で終われたほうが、気持ち的にも経済的にも自分のため。
頭の中ではそんな計算が、一瞬で成り立ってしまっていました。

救われたいと願う純粋な自分と、コストの計算を断ち切れない自分。
その狭間に立たされたことで、尚更に冷静な判断力を失っていたのかもしれません。

……では、この「1分数百円」という密室で、人間が正気を保ち続けられる確率はどれくらいのものなのか。

もし、占いや霊視というものに関心があるのなら、
この第一実験区の「実験」に協力していただけないでしょうか。

「Case.1」で使った場所とはまた違う、別の検体も用意しました。 
異なるフィールドでは、どのようなテンプレートが、あるいはどのような「視える」が投げ込まれるのか。

鑑定士には何が視え、そして相談する側には何が見えるのか。

用法: 自分の「孤独」を普遍的な記号へ変換し、物語の主役として埋没するため。
用量: 理性を完全に停止させない程度の、一回数分間の「高価な夢」として。
注意: 誰にでも当てはまるテンプレートを「自分だけの真実」と誤認し、眼前の矛盾を切り捨てる副作用があります。

ただ鑑定士の力を盲信するだけでなく、その仕組みを知っていたとしたら。
私は長年の依存から、もっと早く抜け出せていたはずです。

知ることは、時に痛みを伴います。
でも、それはきっと、自分を守るための予防線になるのではないでしょうか。

[Case.2:バーナム効果 ーー 検証終了]

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